アトピー性皮膚炎で、塗り薬をきちんと使っても皮疹やかゆみが強く残る。そんな中等症〜重症例では、全身治療としてJAK阻害薬の内服が選択肢になります。
現在、日本でアトピー性皮膚炎に使える主なJAK阻害内服薬は、オルミエント(バリシチニブ)・リンヴォック(ウパダシチニブ)・サイバインコ(アブロシチニブ)です。
JAK阻害薬とは?
JAKは、炎症に関わるサイトカインのシグナルを細胞内へ伝える酵素です。JAK阻害薬は、この経路を抑えることでアトピー性皮膚炎の炎症とかゆみを改善します。
アトピー性皮膚炎では、IL-4、IL-13、IL-31など複数のサイトカインが病態に関与します。JAK阻害薬は、それらのシグナル伝達の一部をまとめて抑える点が特徴です。
なお、塗り薬のコレクチム(デルゴシチニブ)もJAK阻害薬ですが、この記事で扱うのは内服薬です。外用薬については、「アトピーの塗り薬|ステロイド・タクロリムス・JAK阻害薬などの使い分け」で解説しています。
日本で使える3つのJAK阻害内服薬
| 薬剤 | 一般名 | 主な対象年齢 | 通常量の目安 |
|---|---|---|---|
| オルミエント | バリシチニブ | 2歳以上 | 成人4mg 1日1回。小児は体重で調整 |
| リンヴォック | ウパダシチニブ | 12歳以上かつ30kg以上 | 15mg 1日1回。状態により30mg |
| サイバインコ | アブロシチニブ | 12歳以上 | 100mg 1日1回。状態により200mg |
適応年齢や用量は改訂されることがあります。特にオルミエントは、現在は2歳以上の小児アトピー性皮膚炎にも使用できます。
オルミエント(バリシチニブ)
JAK1/JAK2を主に阻害する薬です。
成人では通常4mgを1日1回内服し、効果が得られた後や患者の状態に応じて2mgへの減量を検討します。
小児では現在、2歳以上に使用でき、体重30kg以上では通常4mg、30kg未満では通常2mgを1日1回使用します。状態に応じて減量することがあります。
リンヴォック(ウパダシチニブ)
JAK1選択性を持つ薬です。
アトピー性皮膚炎では、成人および12歳以上かつ体重30kg以上の小児に、通常15mgを1日1回内服します。患者の状態に応じて30mgを使うことがあります。
皮疹だけでなく、かゆみに対して比較的早い改善を実感する患者もいます。
つまり、現時点の比較研究ではリンヴォック30mgは、アトピー性皮膚炎の全身治療の中でも特に強い皮疹改善・かゆみ改善が期待できる選択肢です。ただし、これらは主に異なる臨床試験を統合した間接比較であり、すべての薬を直接比較した試験ではありません。また15mgから30mgへ増量すると、有効性だけでなく、ざ瘡、ヘルペス、検査値異常などの有害事象もより意識する必要があります。効果の順位だけで薬を決めるのではなく、患者ごとのリスクと合わせて判断します。
サイバインコ(アブロシチニブ)
JAK1を主に阻害する薬です。
成人および12歳以上の小児に、通常100mgを1日1回内服し、患者の状態に応じて200mgへ増量できます。
腎機能や併用薬によって用量調整が必要な場合があります。
どんな人にJAK阻害薬を考える?
JAK阻害薬は、軽いアトピー性皮膚炎に最初から使う薬ではありません。
基本は、診断と重症度を確認し、ステロイド外用薬、タクロリムス、デルゴシチニブなどを病変に合わせて適切に使用します。
それでも、
- 広い範囲に強い皮疹が続く
- かゆみが強く、睡眠や仕事・学校に影響している
- 外用治療をきちんと行っても再燃を繰り返す
- 全身治療が必要な中等症〜重症と判断される
といった場合に、JAK阻害薬や生物学的製剤を検討します。
日本の最適使用推進ガイドラインでは、一定の重症度と、適切な外用治療を行っても十分に改善しないことなどが確認事項になっています。
デュピクセントなど生物学的製剤とはどう違う?
JAK阻害薬と、デュピクセントなどの生物学的製剤は、どちらも中等症〜重症のアトピー性皮膚炎に使う全身治療です。
| 比較 | JAK阻害内服薬 | 生物学的製剤 |
|---|---|---|
| 投与方法 | 毎日の内服 | 定期的な注射 |
| 作用 | 複数のサイトカインシグナルを細胞内で抑える | 特定のサイトカインや受容体を狙う |
| 効果発現 | かゆみなどで比較的早い反応がみられることがある | 薬剤ごとに異なる |
| 安全性管理 | 感染症、血球、肝腎機能、血栓症などを確認し、定期検査が必要 | 薬剤ごとの副作用を確認 |
「JAKの方が強い」「注射の方が安全」と単純に分けることはできません。年齢、既往歴、感染症リスク、通院・注射への抵抗、妊娠希望などを含めて選びます。
デュピクセントについては、「アトピーでデュピクセントを考えるのはどんなとき?」も参考にしてください。
開始前にどんな検査をする?
JAK阻害薬は免疫反応に関わるため、治療開始前に安全性を確認します。
日本皮膚科学会の使用ガイダンスでは、主に次のような項目を確認します。
- 血算:白血球、好中球、リンパ球、ヘモグロビン、血小板
- 肝機能・腎機能
- 結核:胸部画像、IGRAなど
- B型肝炎・C型肝炎
- 感染症の有無
- 帯状疱疹の既往
- 血栓症の既往・リスク
- 悪性腫瘍の既往
- 妊娠・授乳
- 併用薬
開始後も血液検査などを定期的に行います。
特に注意したい副作用
感染症
JAK阻害薬では、肺炎などの重篤な感染症、結核、日和見感染症に注意します。
発熱、咳、息苦しさなどが出た場合には、自己判断で飲み続けず医療機関へ連絡します。
帯状疱疹・ヘルペス
帯状疱疹や単純ヘルペスが出ることがあります。水ぶくれ、ピリピリした痛みなどが出た場合は早めの受診が必要です。
血球減少・肝機能障害など
好中球、リンパ球、ヘモグロビン、血小板などの変化や、肝機能異常が起こることがあります。
血栓症・心血管イベント・悪性腫瘍
静脈血栓塞栓症などのリスクも確認します。またJAK阻害薬では、他疾患での安全性データも踏まえて、悪性腫瘍や心血管イベントについて注意して使用します。
特に高齢者、喫煙歴、心血管リスク、血栓症既往などがある場合は、治療選択をより慎重に考えます。
妊娠中は使える?
JAK阻害内服薬は、妊婦または妊娠している可能性のある女性には使用できません。
妊娠を希望している場合も、薬剤ごとに避妊期間などを含めて事前に確認する必要があります。
JAK阻害薬を始めても塗り薬は続ける?
基本的に続けます。
全身治療を始めても、残っている皮疹に対する外用治療、保湿、スキンケアは重要です。
JAK阻害薬はアトピー性皮膚炎を完全に治して、外用薬を一切不要にする薬ではありません。
IN PRACTICE
実際の診療なら、僕はこう考えます
1 まず外用治療が本当に十分かを確認します
「塗り薬が効かない」と言っても、量・強さ・塗る期間が足りていないことはあります。JAK阻害薬へ進む前に、外用治療を適切にできているかを一度整理します。
2 全身治療が必要なら、JAKだけにこだわりません
生物学的製剤にも複数の選択肢があります。年齢、皮疹の強さ、かゆみ、感染症リスク、注射と内服のどちらが続けやすいかまで含めて選びます。
3 JAKは効果だけでなく、安全性管理までセットです
治療前の結核・肝炎・血液検査、治療中の定期検査が必要です。効き目が良いからこそ、感染症や血栓症などのリスクも含めて安全に使うことが大切です。
4 重症例を「もっと悪くなるまで待つ」必要はないと思います
外用治療を十分に行っても生活に支障が大きい中等症〜重症例では、全身治療を早めに説明する価値があります。選択肢を知ったうえで、その人に合う方法を一緒に決めることが重要です。
まとめ
アトピー性皮膚炎のJAK阻害内服薬には、オルミエント、リンヴォック、サイバインコがあります。
外用治療で十分にコントロールできない中等症〜重症例で有力な選択肢ですが、薬剤ごとに対象年齢・用量が異なり、感染症、血球減少、肝腎機能、血栓症などの安全性管理が必要です。
「どの薬が一番強いか」ではなく、効果、安全性、年齢、既往歴、生活スタイルまで含めて選ぶことが大切です。
参考文献
- 日本皮膚科学会・日本アレルギー学会:アトピー性皮膚炎診療ガイドライン2024
- 日本皮膚科学会:アトピー性皮膚炎におけるJAK阻害内服薬の使用ガイダンス
- PMDA:オルミエント 医療用医薬品情報
- PMDA:リンヴォック 医療用医薬品情報
- PMDA:サイバインコ 医療用医薬品情報
- Comparative efficacy of targeted systemic therapies for pruritus in moderate-to-severe atopic dermatitis without topical treatment: a network meta-analysis. J Dermatolog Treat. 2024. PMID: 39592133.
- Comparative efficacy of targeted systemic therapies for moderate-to-severe atopic dermatitis: a network meta-analysis of phase 3–4 randomized trials. J Dermatolog Treat. 2026. PMID: 41919337.
医療情報確認日:2026年10月21日
