「頬に左右対称のシミがあるから肝斑だと思っていた」「トーニングや美白治療を続けても、灰色っぽい斑点だけ残る」。
こうした場合に考えたい病気の一つが、ADM(Acquired Dermal Melanocytosis:後天性真皮メラノサイトーシス)です。
この記事では、ADMの特徴、肝斑や老人性色素斑との違い、レーザー治療、炎症後色素沈着(PIH)への注意まで皮膚科専門医が解説します。
ADMとは?
ADMは、後天性真皮メラノサイトーシスの略です。
「後天性両側性太田母斑様色素斑(ABNOM)」などと呼ばれてきた病態を含み、一般的には思春期以降〜成人になってから、両頬を中心に褐色〜灰褐色、青灰色の小さな色素斑が現れます。
通常の老人性色素斑などではメラニンが主に表皮側にありますが、ADMでは真皮にメラノサイトが存在することが大きな違いです。そのため、色が青み・灰色みを帯びて見えることがあります。
ADMはどこに出る?
顔面型ADMでは、特に次の部位によくみられます。
- 頬骨周囲
- こめかみ
- 下まぶた周囲
- 鼻翼周囲
左右両側に出ることが多く、数mm程度の斑点状の色素斑が集まってみえることがあります。
肝斑と好発部位が重なるため、患者さん自身では区別しにくい病気です。
ADMと肝斑の違い
| ADM | 肝斑 | |
|---|---|---|
| 主な色 | 灰褐色、青灰色、褐色 | 薄茶色〜褐色 |
| 見え方 | 小さな斑点が集まることが多い | 面状・地図状に広がることが多い |
| 色素の主な位置 | 真皮 | 主に表皮〜表皮真皮境界部の変化 |
| 好発部位 | 頬骨周囲、こめかみ、下眼瞼など | 頬、額、上口唇など |
| 治療の中心 | 色素レーザー | 遮光、外用・内服、必要に応じ慎重なレーザー等 |
ADMは「点状」、肝斑は「面状」という違いが診断のヒントになりますが、実際にはこれだけで判断できるわけではありません。
さらに重要なのが、ADMと肝斑が同じ患者さんに併存することがある点です。日本皮膚科学会雑誌の2024年の総説でも、顔面型ADMでは肝斑様病態を伴うことが多いとされています。
肝斑については、「肝斑はレーザーで悪化する?|僕が焦ってレーザーをしない理由」も参考にしてください。
ADMと普通のシミ(老人性色素斑)の違い
老人性色素斑は、紫外線の影響などで生じる一般的な「シミ」の代表です。
比較的境界がはっきりした茶色い斑としてみられ、色素は主に表皮側に存在します。
一方、ADMは色素が真皮にあるため、より青み・灰色みを帯びて見えることがあります。
同じ「シミ」に見えても、色素の深さが違えば治療方法も変わります。
ADMとそばかすの違い
そばかす(雀卵斑)は、幼少期〜若年期から鼻や頬を中心に小さな褐色斑が多数みられることが多く、紫外線で濃くなりやすい病変です。
ADMも小さな斑点状にみえるため似ることがありますが、ADMでは灰色〜青灰色調が混ざること、発症年齢や分布などが診断のヒントになります。
どうやって診断する?
ADMはまず、
- 発症した年齢
- 色調
- 分布
- 斑点状か面状か
- 肝斑や老人性色素斑が重なっていないか
を確認して診断します。
必要に応じてダーモスコピーを使います。
それでも診断が難しい場合には、皮膚生検を行い、真皮内のメラノサイトを確認することで確定診断することがあります。
ADMは塗り薬だけで消える?
ADM本体は真皮に色素が存在するため、一般的な美白外用だけで十分に消すことは難しい病変です。
ハイドロキノンなどの外用が、肝斑や炎症後色素沈着など併存する表皮側の色素に使われることはありますが、ADM本体の治療の中心は色素レーザーです。
ADMのレーザー治療
ADMでは、メラニンを標的とするQスイッチレーザーなどが治療の中心になります。
特にQスイッチルビーレーザーは、ADMに対する代表的な治療の一つです。2024年の日本レーザー医学会誌でも、ADMはQスイッチレーザーによる治療効果が高い一方、照射後の炎症後色素沈着が問題になりやすいことが整理されています。
施設によっては、Qスイッチアレキサンドライトレーザー、QスイッチNd:YAGレーザー、ピコ秒レーザーなどを使用することもあります。
レーザーの違いについては、「Qスイッチルビー・ピコレーザー・IPL|シミ取りは結局どれを選ぶ?」をご覧ください。
1回で消える?
ADMは一般的な老人性色素斑のように、1回の照射で大きく改善して終了、という経過にならないことがあります。
真皮にある色素が徐々に処理されるため、レーザー照射後は数か月単位で経過をみながら、残存があれば追加照射を考えます。
慶應義塾大学病院では、効果判定に最低3か月、場合によって6か月程度経過をみて、必要なら再照射すると説明しています。
治療回数には個人差がありますが、複数回治療が必要になることは珍しくありません。
治療後に一度濃くなることがある|炎症後色素沈着(PIH)
ADM治療で患者さんに必ず説明しておきたいのが、炎症後色素沈着(PIH)です。
レーザー照射後、一時的に色が濃くなることがあります。
特に日本人を含むアジア人の肌ではPIHが目立つことがあり、「レーザーを当てたのに濃くなった」と感じる時期が生じることがあります。
ADMの治療は、レーザー直後の見た目ではなく、数か月単位で評価することが大切です。
肝斑を合併している場合はどうする?
ここがADM治療で特に難しいところです。
ADM部分に色素レーザーが必要でも、その上や周囲に肝斑が重なっていると、レーザー刺激によって肝斑が悪化したり、PIHが強く出たりする可能性があります。
そのため、肝斑の活動性が高い場合には、まず遮光や外用・内服などで肝斑を落ち着かせてからADM治療を計画することがあります。
慶應義塾大学病院でも、肝斑を合併する場合は肝斑を先に治療するとしています。
IPLやトーニングを繰り返せばADMは消える?
ADMは真皮にあるメラニン・メラノサイトが治療対象です。
そのため「シミだからとりあえずIPL」「左右対称だから肝斑だろうとトーニング」と病名を決めずに治療を続けても、ADM本体が十分に改善しないことがあります。
レーザーや光治療の名前から治療を選ぶのではなく、先にADMなのか、肝斑なのか、老人性色素斑なのかを診断することが重要です。
ADMのレーザー治療は保険?自費?
ADMのレーザー治療については、日本国内でも施設によって保険診療として扱っているケースと、自費診療として扱っているケースがあります。
これは診断上の扱い、使用する機器の承認・保険適用条件、各医療機関の運用などによって異なるため、「ADMなら必ず保険」「必ず自費」と一律に断定するのは適切ではありません。
実際に治療を受ける場合は、診断後に使用機器・治療方法・保険適用の可否を各医療機関で確認してください。
IN PRACTICE
実際の診療なら、僕はこう考えます
1 「シミ」と一括りにせず、まずADMかどうかを診断します
ADM、肝斑、老人性色素斑は同じ頬に重なることがあります。治療法が違うので、レーザーを選ぶ前に病名を分けることを大切にします。
2 肝斑が重なっていれば、いきなり強く治療しません
ADM本体には色素レーザーが必要でも、肝斑の活動性が高いときは先に肝斑を落ち着かせることを考えます。
3 ADMは1回で終わる治療とは説明しません
真皮の色素はゆっくり処理されます。照射後はPIHも含めて数か月単位で経過を見て、残っていれば追加治療を考えます。
4 「レーザーの機械」より「診断」を先にします
IPL、トーニング、ピコ、Qスイッチなど治療機器はいろいろありますが、機械から治療を決めるのではなく、その色素斑が何なのかを診断してから選びます。
まとめ
ADMは、頬を中心に左右対称にみられることが多い、灰褐色〜青灰色の色素性病変です。
肝斑や一般的なシミと似ていますが、ADMでは色素が真皮に存在するため、治療の中心はQスイッチレーザーなどの色素レーザーになります。
一方で、肝斑を合併していることも多く、照射後には炎症後色素沈着が生じることがあります。
「頬のシミがなかなか薄くならない」「治療を続けても灰色っぽい斑点が残る」という場合は、ADMを含めて一度診断を見直す価値があります。
参考文献・情報源
- 日本皮膚科学会雑誌 2024:後天性真皮メラノサイトーシスの病態とレーザー治療のエビデンス
- 日本レーザー医学会誌 2024:Fractional Q-switched Ruby Laserを用いたADMの治療経験
- 慶應義塾大学病院 KOMPAS:後天性真皮メラノサイトーシス
医療情報確認日:2026年10月26日
