手術の傷跡を目立たせにくくするために僕が考えていること

閉じた線状の手術瘢痕を医療用テープで保護する前腕と、傷跡の拡大イラスト

「手術は終わったけれど、赤い線が気になる」「抜糸したのに、少し硬く盛り上がっている」。傷がふさがったあとも、傷跡への心配は続くことがあります。

傷が閉じることと、傷跡が落ち着くことは、同じ時点ではありません。手術後の赤みや硬さは時間とともに変わります。一方で、炎症が続いて盛り上がる傷跡は、早めに治療を相談した方がよい場合があります。

僕が大切にしたいのは、病気を治すだけでなく、その後の傷跡もできるだけ目立ちにくくする視点です。ただし、傷跡を必ず消せる方法や、すべての人に同じように効くケアはありません。日常の切り傷・擦り傷の初期対応は、「切り傷・擦り傷をきれいに治すには?」で解説しています。

目次

傷跡は、数か月以上かけて変わっていく

手術直後からしばらくは赤みや硬さがあり、その後、数か月から1年以上かけて薄く柔らかくなることがあります。部位、傷の深さ、皮膚にかかる力、感染の有無、体質などで経過が異なります。[1][2]

胸、肩などの引っ張られやすい部位や、以前から傷跡が盛り上がりやすい人では、より慎重な経過観察が必要です。「抜糸した時点の見た目が完成形」ではありませんが、何でも時間任せでよいわけでもありません。

通常の傷跡、肥厚性瘢痕、ケロイドの違い

赤みや硬さが少しずつ落ち着く通常の傷跡に対し、赤く厚く盛り上がり、かゆみや痛みが続く場合は、肥厚性瘢痕(ひこうせいはんこん)やケロイドを考えます。

肥厚性瘢痕は主に元の傷の範囲内で盛り上がり、ケロイドは元の傷を越えて周囲へ広がるのが一つの目安です。ただし、境界がはっきりしないこともあり、写真一枚だけで区別できない場合もあります。[2]

診察では、手術からの期間、大きさの変化、赤み・痛み・かゆみ、過去の傷跡の体質を確認します。急に大きくなる、潰れる、繰り返し出血するなど典型的でない場合は、傷跡以外の病気も考え、必要に応じて組織を調べます。[2]

傷が治る途中で、早めに連絡してほしい変化

赤み・熱感・痛みが日ごとに増える、膿が出る、発熱する、傷が開く、圧迫しても出血が止まらない場合は、手術した医療機関に連絡してください。通常の傷跡の赤みと決めつけず、感染や出血などへの対応が必要です。

傷跡を考えたケアは、手術前から始まる

手術では、病変を適切に治療することを第一に、切開する位置や方向、傷にかかる緊張、縫い合わせ方、術後の保護を考えます。皮膚を強く引っ張る力を減らすことは、傷跡の幅や盛り上がりを考えるうえで重要です。[1][2]

ただし、病変の大きさや深さ、部位によって選べる方法には限界があります。「切らずに済ませたい」「線を最短にしたい」という希望だけで、必要な治療や病理検査を省くことはできません。

例えば、粉瘤の治療でも、病変と炎症の状態を踏まえて考える必要があります。以前の手術でケロイドができたことがある場合は、手術前に伝えておくと役立ちます。

自宅での保護は「いつから・何を使うか」が大切

傷が閉じるまでは、術後の指示を優先する

洗い方、ガーゼや被覆材の交換、入浴・運動の再開は、手術の部位と方法に合わせます。まだ開いている傷に、美容目的のクリームやシリコーン製品を自己判断で塗ることは避けてください。

テープやシリコーンは、目的と肌の状態を確認する

傷が閉じたあとに、医療用テープなどで引っ張る力を和らげたり、シリコーンシート・ジェルなどで保護したりする方法があります。対象となる傷跡や製品によって使い方が異なり、効果には個人差があります。どの製品でも必ず目立たなくなるといえるほど、根拠がそろっているわけではありません。[1][2]

開始する時期、貼り替えの頻度、続ける期間は一律ではありません。かぶれ、水ぶくれ、皮膚のふやけが出たら、無理に貼り続けず相談してください。

こすらない・引っ張りすぎない・紫外線から守る

かさぶたをはがしたり、早い時期から強いマッサージをしたりしないようにします。関節などでは動かし方の指示を確認し、自己判断で長く固定しすぎることも避けます。傷が閉じたあとは、衣類などで日差しから守り、日焼け止めは肌の状態を見て使用します。紫外線対策は色の変化への配慮で、傷跡を消す治療ではありません。

赤く盛り上がる傷跡には、治療を検討する

ステロイドの貼り薬など

肥厚性瘢痕やケロイドでは、炎症を抑えるステロイドの貼り薬などを使う場合があります。国内でこれらに適応を持つ製剤がありますが、普通の保護テープとは別の薬です。傷跡ならどれにでも使うものではありません。

皮膚が薄くなる、毛細血管が目立つ、かぶれるなどの副作用に注意し、範囲と期間を調整します。感染のある部位などには使用できない場合があり、小児や妊娠・授乳中も製剤の条件を確認します。[3]

ステロイドの局所注射

盛り上がりや痛み・かゆみが強い場合などには、傷跡の中にステロイドを注射する方法があります。例えばトリアムシノロンアセトニドの皮内用製剤には、国内で「早期ケロイド及びケロイド防止」の適応があります。外用剤では効果が不十分、または十分な効果が期待できない場合に用いる条件があり、傷跡の診断と製剤の適応を確認して量や間隔を決めます。

注射の痛み、皮膚のへこみや薄さ、色の変化などが起こることがあり、繰り返す際にも反応と副作用を確認します。自己注射をする治療ではありません。[4]

大きなケロイドや動きの制限がある傷跡などでは、専門施設で手術や併用治療を検討します。ケロイドは切除だけで再発することがあり、術後の再発対策まで含めた計画が必要です。治療の目的と負担を比べて判断します。[2]

IN PRACTICE

実際の診療なら、僕はこう考えます

僕が大切にしたいのは、傷を閉じて治療を終えるのではなく、その先の傷跡まで見通すことです。もちろん病変を適切に治すことが前提ですが、将来の見え方や動かしやすさも、患者さんにとって大きな問題だと思います。

そのためには、手術前に、どの場所にどのくらいの傷ができるのか、どんな経過が考えられるのかを共有することが重要です。過去に盛り上がる傷跡ができた経験や、仕事でよく動かす部位かどうかも、確認したい情報になります。

術後のケアは、製品をたくさん使うほどよいというものではありません。今は傷を閉じる段階なのか、閉じた傷跡を保護する段階なのか、炎症への治療が必要な段階なのかを分けると、何をするべきかが整理しやすくなります。

赤みがあるだけで失敗と決めつける必要はありません。一方で、盛り上がりが増える、痛みやかゆみが続くといった変化は、我慢せず伝えてほしいところです。時間とともによくなる変化と、治療を考える変化を見分けていくことが大切です。

完全に消えると約束することはできませんが、できるだけ目立ちにくくするために、手術と術後の経過をひと続きで考える。その視点を大事にしたいと思います。

傷跡の相談は、抜糸のあとでもできる

日付を付けた写真を同じ条件で残すと、変化を伝えやすくなります。赤み・盛り上がり・痛み・かゆみが気になる場合は、手術した医療機関や皮膚科・形成外科へ相談してください。ニキビのあとに残る凹凸は、ニキビ跡の種類の記事で別に説明しています。

この記事を書いた医師

皮膚科専門医・のぶあき。肌で悩む人が、遠回りしないために。医学的な情報と、診療で大切にしたい考え方を発信しています。プロフィール/札幌で皮膚科をつくるまで。

参考文献・情報源

1. 日本形成外科学会:形成外科診療ガイドライン2021 第3巻(瘢痕・ケロイド)

2. Japan Scar Workshop Consensus Document 2018:Diagnosis and Treatment of Keloids and Hypertrophic Scars(2019年公表)

3. PMDA:エクラープラスター 電子添文

4. PMDA:ケナコルト-A皮内用関節腔内用水懸注50mg/5mL 電子添文(2026年3月改訂)

医学情報の確認日:2026年9月9日。薬の適応・使用条件は改訂されるため、処方時には最新の電子添文を確認します。

よかったらシェアしてね!
  • URLをコピーしました!
  • URLをコピーしました!

AUTHOR

日本専門医機構認定 皮膚科専門医
元・総合病院皮膚科医長。現在は新潟のしむら皮膚科クリニックに勤務。
将来、札幌で皮膚科を開業予定。
プロフィールを見る →

目次