「夜になるとかゆくて眠れない」
「家族にも同じようなかゆみが出てきた」
こうしたときに、湿疹や乾燥肌と一緒に考えたい病気の一つが疥癬(かいせん)です。
強いかゆみだけでなく、「どこに、どんな皮疹が出ているか」「周囲に同じ症状の人がいないか」を見ることが診断の鍵になります。
疥癬は、見た目だけでは湿疹、虫刺され、アトピー性皮膚炎などと区別しにくいことがあります。診断が遅れると家庭や施設内で感染が広がることもあるため、疑ったときにきちんとヒゼンダニを探すことが大切です。
疥癬とは?
疥癬は、ヒゼンダニ(Sarcoptes scabiei var. hominis)が人の皮膚に寄生して起こる病気です。
主に人から人への接触で感染します。家庭内、介護・医療施設、集団生活などで問題になることがあり、同じ寝具を使う、長時間密に皮膚が触れるといった状況では感染リスクが高くなります。
初めて感染した場合、症状が出るまでにはおよそ1〜2か月かかることがあります。そのため、本人に症状が出た時点で、すでに周囲に感染が広がっていることもあります。
疥癬ではどんな症状が出る?
強いかゆみ
疥癬では強いかゆみが出ることが多く、特に夜間にかゆみが強くなることがあります。
ただし、「夜にかゆい=疥癬」というわけではありません。アトピー性皮膚炎や乾燥性湿疹などでも夜にかゆくなることはあります。
湿疹が繰り返す場合は、アトピー性皮膚炎の総合ガイドも参考にしてください。
赤いブツブツや湿疹のような皮疹
体幹や四肢に赤い丘疹が出て、掻き壊しによって湿疹のように見えることがあります。
この「湿疹っぽさ」が、疥癬の診断を難しくする理由の一つです。
疥癬トンネル
疥癬で特に重要なのが疥癬トンネルです。
手指の間、手首などに、細く曲がった線のような皮疹が見えることがあります。ヒゼンダニが角質層の中を進んだ跡で、トンネルの先端にダニがいることがあります。
陰部などに結節が残ることもある
男性の陰部、臀部などに赤褐色のしこりのような皮疹ができることがあります。ヒゼンダニが駆除された後もしばらく残ることがあり、治療が効いていないとは限りません。
通常疥癬と角化型疥癬は分けて考えます
疥癬は、大きく通常疥癬と角化型疥癬に分けられます。
| 病型 | 特徴 | 感染力 |
|---|---|---|
| 通常疥癬 | 赤い丘疹、疥癬トンネル、強いかゆみなど | 密な接触で感染する |
| 角化型疥癬 | 厚い角質や痂皮が広範囲にみられる。免疫が低下した人、高齢者などで起こりやすい | 非常に強い |
角化型疥癬ではヒゼンダニの数が非常に多く、通常疥癬とは感染対策も治療も大きく変わります。
診断ではダーモスコピーと顕微鏡検査を使います
疥癬は、皮疹を見ただけで診断を決める病気ではありません。
診察では、皮疹の分布や疥癬トンネルを探し、必要に応じてダーモスコピーで拡大して確認します。
ダーモスコピーでは、疥癬トンネルの先端にいるヒゼンダニを示唆する所見が見えることがあります。
さらに疑わしい場所から角質を採取して顕微鏡で観察し、虫体、虫卵などが確認できれば診断の確度が高まります。
疥癬の治療
日本では、主にイベルメクチン内服とフェノトリン外用が疥癬治療の中心です。
イベルメクチン(ストロメクトール)
イベルメクチンは、体重に応じて内服する疥癬治療薬です。
国内添付文書では、疥癬に対して約200μg/kgを1回経口投与します。空腹時に水のみで服用することが望ましいとされています。
日本皮膚科学会ガイドラインでは、1週間後に再診し、顕微鏡・ダーモスコピーでヒゼンダニが確認される場合や、新しい疥癬トンネルなどが出ている場合には、再投与を検討します。
体重15kg未満の小児では臨床試験が行われていないため、年齢・体重によって治療選択が変わります。また妊娠中などでは内服以外を選ぶことがあります。
フェノトリン(スミスリンローション5%)
フェノトリンは疥癬に保険適用のある外用薬です。
通常は頸部以下の皮膚に広く塗布し、12時間以上経過してから洗い流します。日本皮膚科学会ガイドラインでは、1週間隔で少なくとも2回外用する方法が示されています。
外用治療では、皮疹があるところだけに塗るのではなく、指の間、耳の後ろ、外陰部、臀部などを塗り残さないことが重要です。
角化型疥癬では内服と外用を組み合わせることがあります
角化型疥癬では感染力が強く、ヒゼンダニの数も多いため、内服と外用を組み合わせた治療や、より厳密な感染対策が必要になります。
同居家族も全員治療する必要がある?
ここは「家族なら全員必ず治療」と単純には言えません。
通常疥癬で、同居家族に症状がなく、濃厚な接触状況でもない場合は、皮膚症状が出ないか注意して経過を見ることがあります。
一方で、角化型疥癬との濃厚接触、雑魚寝に近い生活、施設内での集団発生などでは、無症状でも予防治療を検討する場面があります。
日本皮膚科学会ガイドラインでも、濃厚接触者への予防治療は状況に応じて検討するとされる一方、誰が濃厚接触者か明確でない場合には一律治療ではなく経過観察も選択肢とされています。無症状者への予防治療は、保険診療上の扱いにも注意が必要です。
家の中を全部消毒しないといけない?
通常疥癬では、必要以上に家中を消毒する必要はありません。
一般的な洗濯、掃除、タオルや寝具の共用を避けるといった対応が基本です。
一方、角化型疥癬では大量のヒゼンダニを含む落屑が環境中に広がるため、リネンや居室への対策がより重要になります。
治療したのにかゆい=まだダニがいる、とは限りません
疥癬治療後も、ヒゼンダニに対するアレルギー反応によってかゆみや湿疹が数週間残ることがあります。これを疥癬後瘙痒と呼びます。
新しい疥癬トンネルができていない、検査でダニが確認されない、といった状況であれば、かゆみだけを理由に抗疥癬薬を漫然と繰り返すべきではありません。
必要に応じて、保湿剤、ステロイド外用、抗ヒスタミン薬などで残っている炎症やかゆみを治療します。
こんなときは皮膚科を受診してください
- 夜に強いかゆみが続く
- 手指の間や手首に細い線状の皮疹がある
- 家族や同居人にも同じようなかゆみが出てきた
- 高齢者施設・病院などで疥癬患者との接触があった
- 湿疹として治療してもなかなか改善しない
- 全身に厚いかさぶた・角質が増えてきた
子どもの湿疹は疥癬以外にも多くの原因があります。小児の湿疹全般については、子どもの湿疹|乳児湿疹・アトピーをどう見分ける?も参考にしてください。
実際の診療なら、僕はこう考えます
1 まずダーモスコピーで「怪しい場所」を探します
疥癬を疑ったら、僕はまずダーモスコピーで手指の間や手首などをよく確認します。疥癬トンネルやヒゼンダニを疑う所見があれば、その部位を狙って顕微鏡検査をします。闇雲に皮膚を採るより、採る場所を選ぶことが大事だと思っています。
2 成人の通常疥癬では、僕は内服治療を中心に考えます
成人でイベルメクチンを使える状況なら、僕は内服を治療の中心にすることが多いです。ただし、小児、妊娠中、角化型疥癬などでは話が変わるので、年齢・体重・患者背景を見て外用や併用を選びます。
3 無症状の同居家族を一律に治療するわけではありません
同居しているという理由だけで、症状のない家族全員を必ず治療することはしていません。接触の濃さ、角化型疥癬かどうか、施設内発生かなどを確認します。一方で、感染への不安が強く予防治療を希望される場合には、メリット・デメリットや保険上の扱いも含めて説明したうえで個別に検討します。
4 治療後のかゆみだけで、すぐ「治っていない」とは判断しません
疥癬が治ったあとも、湿疹とかゆみは残ることがあります。新しい疥癬トンネルや虫体が確認されなければ、ステロイド外用や抗ヒスタミン薬で症状を抑えながら経過を見ることがあります。かゆみが残ることと、ダニが残っていることは分けて考えます。
まとめ
疥癬は、ヒゼンダニが皮膚に寄生して起こる感染症です。
夜間に強いかゆみ、手指や手首の疥癬トンネル、家族や施設内での同様症状などが診断の手がかりになります。
診断ではダーモスコピーと顕微鏡検査を使い、治療ではイベルメクチン内服やフェノトリン外用を患者背景に応じて選びます。
そして、治療後にかゆみが残っても、それだけで治療失敗とは限りません。新しい皮疹が出ているか、ヒゼンダニが残っているかを確認して判断することが大切です。
参考文献・情報源
医学情報の確認日:2026年10月14日。
