皮膚の傷がなかなか治らない。かさぶたを繰り返す。少しずつ硬く盛り上がってきた。
こうした変化の中には、まれですが有棘細胞癌(ゆうきょくさいぼうがん、SCC)という皮膚がんが隠れていることがあります。
治りにくい傷、硬い盛り上がり、出血やただれを繰り返す病変は、一度皮膚科で確認してください。
この記事では、有棘細胞癌の症状、原因、前がん病変との関係、検査、治療、受診の目安と、実際の診療で僕が見逃さないために大切だと考えていることを解説します。
有棘細胞癌とは?
有棘細胞癌は、皮膚の表面にある表皮の角化細胞から生じる皮膚がんです。
日本形成外科学会では、基底細胞癌に次いで頻度の高い皮膚悪性腫瘍と説明されています。
早期の段階で適切に治療できれば治癒が期待できますが、進行すると周囲へ深く広がったり、リンパ節やほかの臓器へ転移したりすることがあります。
どんな見た目になる?
有棘細胞癌の見た目は一つではありません。
よくみられる変化として、次のようなものがあります。
- 赤みのある、硬い盛り上がり
- 表面がかさかさ・ざらざらして厚くなる
- かさぶたを繰り返す
- ただれや潰瘍が治らない
- 触ると硬いしこりがある
- 出血を繰り返す
- 急に大きくなる
進行すると、浸出液が出たり、においを伴ったりすることもあります。
どこにできやすい?
顔、耳、頭皮、手の甲など、長年日光に当たりやすい場所にできることが多いです。
ただし、体のどこにでも生じる可能性があります。
特に、長期間の紫外線曝露は重要な発症要因の一つです。
有棘細胞癌ができやすくなる要因
紫外線
長年紫外線を浴びることで、皮膚の角化細胞に変化が積み重なり、有棘細胞癌につながることがあります。
光線角化症(日光角化症)
光線角化症は、紫外線の影響で生じる代表的な前がん病変です。
赤くざらざらした斑としてみられ、有棘細胞癌へ進展することがあります。
ボーエン病
ボーエン病は、がん細胞が表皮内にとどまっている上皮内有棘細胞癌(SCC in situ)です。
その一部が深い層へ浸潤すると、浸潤性の有棘細胞癌になります。
やけどや傷跡など、長く続く慢性病変
古いやけどの瘢痕や、長期間治らない潰瘍などから有棘細胞癌が生じることがあります。
「昔からある傷だから大丈夫」とは限りません。長年変わらなかった傷跡が急に盛り上がる、出血する、潰瘍になるといった変化は確認が必要です。
免疫抑制状態
臓器移植後など免疫を抑える治療を受けている人では、有棘細胞癌のリスクが高くなることがあります。
有棘細胞癌と、ほくろ・基底細胞癌・メラノーマの違い
皮膚がんは見た目だけで区別できるとは限りません。
| 病変 | よくみられる見た目の傾向 | 診断で大切なこと |
|---|---|---|
| 有棘細胞癌 | 赤い・硬い盛り上がり、かさつき、潰瘍、出血など | 必要なら生検・病理診断 |
| 基底細胞癌 | 黒〜褐色、光沢のある結節、潰瘍など | ダーモスコピーや病理診断 |
| メラノーマ | 色・形・境界の不規則な色素病変など | 疑わしい病変は適切な手順で診断 |
| 良性のできもの | 多種多様 | 「見た目だけ」で決めつけない |
基底細胞癌については基底細胞癌とは?顔にできやすい黒いできもの、メラノーマについてはメラノーマとは?ほくろとの見分け方も参考にしてください。
どうやって診断する?
診察・視診
病変の形、硬さ、表面の角化、潰瘍、出血、増大のスピードなどを確認します。
必要に応じてダーモスコピーを使うこともあります。
皮膚生検・病理検査
有棘細胞癌を正確に診断するためには、病変の一部または全部を採取して病理組織を確認します。
2025年の日本皮膚科学会ガイドラインでも、確定診断には病理学的検査が不可欠とされています。
リンパ節の診察や画像検査
すべての有棘細胞癌でCTやPET/CTを行うわけではありません。
まず原発巣の大きさ・部位・深さ・病理所見などを評価し、リンパ節の触診を行います。
高リスク例、リンパ節転移が疑われる場合、再発例などでは、超音波、CT、PET/CTなどの画像検査を追加することがあります。
有棘細胞癌の治療
手術が治療の中心
遠隔転移のない有棘細胞癌では、手術による切除が治療の中心です。
腫瘍の周囲に一定の正常皮膚を含めて切除し、病理検査で取り切れているかを確認します。
切除範囲は一律ではなく、病変の大きさ、場所、境界、再発かどうか、免疫抑制の有無、病理所見などのリスクに応じて考えます。
リンパ節への対応
リンパ節転移が疑われる場合には、追加検査や専門的治療が必要になります。
センチネルリンパ節生検が検討されることもありますが、すべての症例で行う検査ではありません。
放射線治療・薬物療法
手術が難しい場合や、進行・再発した場合には、放射線治療や薬物療法などを専門施設で検討します。
治療は病期や全身状態によって大きく異なるため、進行例では皮膚がん診療に慣れた施設での評価が重要です。
「レーザーで取ればいい」と考える前に
見た目が「いぼ」「ほくろ」「できもの」に見えても、診断前にレーザーや焼灼で病変を壊してしまうと、病理診断が難しくなることがあります。
特に、治らない潰瘍、硬い盛り上がり、出血を繰り返す病変では、先に診断することが大切です。
ほくろやできものを取る前に診断を重視する理由については、ほくろを取るなら皮膚科?美容外科?|僕が「診断を先に」する理由でも解説しています。
こんな変化があれば皮膚科へ
- 数週間〜数か月たっても治らない傷がある
- 盛り上がりが少しずつ大きくなる
- 表面が硬く、ざらざらしている
- 同じ場所から何度も出血する
- かさぶたが取れてはまたできる
- 古いやけど・傷跡が急に変化した
- 潰瘍やただれが広がっている
皮膚がんは、痛みがないまま進むこともあります。「痛くないから大丈夫」ではなく、治り方や変化の仕方を見て受診してください。
実際の診療なら、僕はこう考えます
1 「治らない傷」は、一度立ち止まって考えます
有棘細胞癌は、最初から「がんらしい見た目」になるとは限りません。傷、かさぶた、いぼのように見えることもあります。普通の傷なら治るはずなのに治らない、同じ場所を繰り返し出血する、硬く盛り上がってくるという経過なら、僕は皮膚がんも鑑別に入れます。
2 美容的に取る前に、まず診断します
患者さんが「いぼだから焼いてほしい」「レーザーで取りたい」と来院しても、少しでも悪性を疑う要素があれば、先に病理診断につなげます。病変を壊してから「何だったのか分からない」となるのは避けたいからです。
3 見た目だけで断定しません
基底細胞癌、ボーエン病、光線角化症、良性のできものなど、似て見える病変があります。ダーモスコピーは参考になりますが、疑わしい場合は最終的に病理で確認します。
4 診断がついたら、リスクを見て治療先を考えます
小さく局所に限局している病変と、大きい・急速に増大する・再発している・深く浸潤している病変では扱いが違います。手術だけで完結できるのか、リンパ節や画像評価が必要か、専門施設での治療が必要かを分けて考えます。
5 前がん病変の段階で気づけることも大切です
光線角化症やボーエン病の段階で見つかることもあります。長年日光に当たってきた顔や頭皮に、治らない赤いざらざらした病変がある場合は、「年齢のせい」「シミの一種」と決めつけず、一度診断しておくことが遠回りを減らすと思います。
まとめ
有棘細胞癌は、皮膚の角化細胞から生じる皮膚がんです。
赤く硬い盛り上がり、治らない傷、かさぶた、潰瘍、出血など、さまざまな見た目をとります。
診断には病理検査が重要で、治療の中心は手術です。高リスク例や転移が疑われる場合には、リンパ節や画像検査などを追加します。
「ただのできもの」と思って壊す前に、診断する。治らない傷や変化し続ける病変があるときは、皮膚科で一度確認してください。
参考文献・情報源
医学情報の確認日:2026年10月19日。
